はし が き から
本書は、私が大阪府守口公共職業補導所(現在の訓練所)の時計修理 科,大阪身体障害者職業補導所(現在の訓練所)の時計科,大阪市立生野 工業高等学校時計計器科で、時計師の卵を教育した十数年の経験から、時 計初学者の教科書としてまとめたものである。
時計教育を行なうとき、適切な教科書がないことが当事者の大きな悩み であった。昭和26年に守口補導所に奉職して時計学の授業を担当したと き、この悩みに直面した。教える者にとっても、学ぶ者にとっても、より どころとする書物のないことの悲劇は大きい。
そこで一念発心して、初等時計教科書を作ろうとし、スイス、フランス アメリカ、イギリス等の先進国の教科書を一橋大学山口隆二先生に教えて いただき、それらを参考にして日本的教科書をこつこつと作り始めた。
このような教科書がないので、業界の目にもとまり、大阪時計組合の事 業内訓練所に、京滋時計研修会にも教科書として使っていただいて好評を 得た。
時代の変遷と共に、内容に大改訂を加える必要が生じ、3年半前から1 章ずつ書き直し、雑誌グノモン上に連載し、この程完結したので、単行本 としてまとめたのが本書ということである。
本書は、週2~3時間, 1ヵ年程度で時計学を教える訓練所の教科書を ねらったものである。そのため、義務教育修了程度の時計師の卵の学力を 考慮して、難解な理論は一切省いた。できるだけ数式等も使わないように し、記述も平易であることを心掛けた。しかし、時計師に必要な基礎的知 識は、一応盛りあげたつもりである。
そこで、時計師の再訓練用に、あるいは時計技能検定やCMW試験の準 備にも、恰好の参考書たりうると信じている。
なお本書は著者のサイン入りの謹呈本で有ります。