レーベルタイプ:赤/銀月桂冠・中溝
マトリックス:0001A AB / 0001B AB (仏盤独自スタンパーで米盤とは異なる)
本品の通し番号:N°172
<ディスク、ジャケットの状態>
A面:1時方向に2本、3時方向に1本、7時方向に2本、8時方向に1本目立つ紙スレあり。3時方向にプレス痕と見られる波線あり。ほかごく微細なスレ、薄キズありますが音に出るようなものはありません。
B面:ごく微細なスレ、薄キズがある程度で美麗。
溝の状態は健常ですが、盤の素材に由来するサーフェスノイズが常時乗ります。これは米ウラニア盤(特に初版・第二版)においてはさらに顕著なもので、本品においてはリスニングの際にさほど気になるレベルではありません(試聴ファイルでご確認ください)。
見開きジャケットの折り目が切れて表側が本体から外れています。角や縁に経年の傷み、変色などありますが保存状態はまずまずです。表面に以前のユーザーが記入したと思われる「Furtwangler」の書き込みあり。
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フルトヴェングラー・ファンであれば一度は実物を入手したい垂涎のコレクターズ・アイテム「ウラニアのエロイカ」。中でも最も入手困難なギガ・レア盤がこのフランス・ウラニア盤です。米ウラニア盤は5種類のマトリックスが確認されており、1953年のリリース以降も数年にわたり再発を繰り返していたことから、市場にはそれなりの個体数が存在し、版を問わなければ入手は決して困難ではありません。仏盤は1955年に通し番号入りで発売され、合計500~750枚程度が流通したと見られますが、その初回プレスのみで再発はなかったため、現存する個体数そのものが極めて少なく、ヴィンテージ盤市場にも数年に1度くらいの頻度でしか出てこない極希少品です。
ジャケットは完全に仏盤オリジナルで米盤とは全く異なります。マトリックスも5種類ある米盤マトのいずれとも異なっており、ウラニア社のマスターテープからフランスで独自にプレスしたと見られます。
興味深いことに、この仏ウラニア盤においては、ジャケット、レーベル面のどこにも指揮者・オーケストラ名の記載がありません。これは当時フルトヴェングラーが米ウラニア社に対して起こした販売差し止め訴訟の結果、米国内では合法としてそのまま販売を認められたのに対し、ヨーロッパにおいては演奏者名を記載しないとの条件で発売を認めることになったためと言われます。
再生音についてですが、米盤の再発第三・四版において指摘されるような音の荒れや歪み感はなく、非常に伸びやかでレンジの広い、「これぞウラニアのエロイカ」というべき素晴らしい音響を堪能できます。ウラニア盤に共通するサーフェスノイズも、最も音質良好とされる米初版・第二版の「竹屋の火事」のような盛大なものではなく、米最後期盤と同様に穏やかな範囲に収まっています(試聴ファイルでご確認ください)。なお、ピッチは米盤と同様高くなっております。
<補記>「ウラニアのエロイカ」の録音特性について、RIAAではなくNABやCOLではないかといった論議がありますが、私見ではRIAAでの再生が適切ではないかと思われます。独特の“ハイ上がり”の音響は、恐らくウラニア社がドイツかオーストリアの放送局から放送用テープの複製を提供された際、もしくはウラニア社がこのテープからマスターテープを起こした際の使用機材の特性と、オリジナルの録音時に使用されたマグネトフォン・レコーダーとの特性の違いにより生じたものではないかと推察されます。NABやCOLでの再生では低域の豊かさが減衰し、フルトヴェングラーとウィーン・フィルによる他の戦中録音とかなり印象が異なった響きとなります。米盤に記載されている録音特性はRIAAそのものであり、「NABやCOLで再生しなくてはウラニア盤の真髄はわからない」といった主張は、根拠の乏しい俗説に過ぎないと考えます。