夜の都会に棲むメロディー。卓越したマスター同士がニューヨークのクラブで密やかに奏でた、名曲揃いのライヴ・パフォーマンス。
ヘイデンは最近すっかりデュオ・フォーマットが気に入っているようだ。こんどはバロンとのライヴで、予想以上に素晴らしい出来だ。このバロンのタッチの美しさ、アドリブの充実は現ジャズ・ピアノ界でナンバーワンと思われる。静かに感動が深まる。★
『ミズーリの空高く』で知られるチャーリー・ヘイデンと、最新作『シングズ・アンシーン』も話題のピアニスト、ケニー・バロンによるデュオ・アルバム。ベテラン同士のぶつかり合いが楽しい。
ヘイデンとバロンという屈指のプレイヤーが米・ニューヨークのイリディウムに出演した際のライヴ録音。何の変哲もないフレーズにすら重厚さを感じさせる圧巻のパフォーマンスが収められており、スタンダード中心の構成も嬉しい。
「CDジャーナル」データベースより
2曲の最後で聞こえる拍手、それに小さな咳払いひとつをのぞけば、クラブで録音された音を聴いているとは気づかないかもしれない。ケニー・バロンとチャーリー・ヘイデンが1996年のこのライヴで静かな緊張感を漂わせながら音楽で語りあうあいだ、イリジウムに集まった観客たちはそれほどまでに静まり返っていたのだ。バラードによる会話は、あまりに親密で、ふたりを引き離してそれぞれ単独で演奏させる気にはまずなれない。
とはいえバロンはとびきりすばらしく、ヘイデンのよく響く低音にシングル・ノート・ラインを乗せることを選んでいる。そしてヘイデンは、テンポが最も遅くなったときでも躍動感をあたえる独創的でときおりダブル・タイムになるフレーズを次から次へと続けている。また、まばゆいばかりの「Very Thought of You」のイントロの幻想的な半音階でさえ音数は抑えられている。ヘイデンは音数が少ないほど多くを物語ることができるのだ。不必要な音は一音もなく、無用なフレーズは一節もない。ヘイデンの伴奏は最小限の基本和音と最低限のビートだけで構成され、ソロ・パートでも飾り気のないメロディーを聴かせる。
本作の各曲は曲を展開させるのに十分な時間をあたえられ(7曲で計70分)、そのおかげで静かな緊張感、それにときおり高揚感を漂わせる音楽が生まれている。ここにあるのは、街中であれどこであれ夜ふけに耳を傾けるには最高の音楽だ。(Stuart Broomer)