カーノの作品とこの曲集について
1850年頃 書かれたと思われる教本は、マドリードのドテシオから出版されているが、巻頭の言葉は次のようである。
「ギターは我が国でポピュラーな楽器であるために、正しい理解に賭け、また、冷淡さを持って見られている」とまず 嘆き、これを取り除くために この本は書かれた と、いろいろな説明があり、最後に「この教本は、最も詩的な楽器である ギターへの尊敬と愛情の証拠として作られ、なお これを 息子、フェデリーコに捧ぐ」 と書かれている。この35のエチュード集は、この教本から抜粋されたものなのだが、巻頭の言葉の結びにあるように ギター への尊敬と愛情と、彼の作風とが 見事な調和をなしているものばかりである。
彼の作風 は 文法的といえば、あるいはそうかもしれない 。しかし、その文法の応用力である この曲集 は、美しい香りに満ちている 。 優美、完結、純粋などの言葉がよく彼の作風を言い表しているのである 。従って この曲集は 技巧の発展というよりも、目的は美しい音を求めるための練習とする方がより良いと思われる。曲の配列は一応 難易の順と言えるが、必ずしもそれなりにとらわれてはいけない。 難易の判定はその人自身のものなので、私は 配列を自由にしておいた。
小原安正