『刺青』若い刺青師清吉は、麻酔で眠らせた無垢な少女の肌に女郎蜘蛛を彫り、長年の宿願を果そうとする。人間の倒錯的な心理をあざやかな文体で描いた代表的短編。『秘密』変装し街中を放浪するという秘かな楽しみを持つ“私”が、ある時、昔なじみの女と再会し、奇妙な逢瀬を重ねるようになる。人間心理の迷宮を描いた傑作短編。
谷崎潤一郎(1886-1965)東京・日本橋生れ。東大国文科中退。在学中より創作を始め、同人雑誌「新思潮」(第二次)を創刊。同誌に発表した「刺青」などの作品が高く評価され作家に。当初は西欧的なスタイルを好んだが、関東大震災を機に関西へ移り住んだこともあって、次第に純日本的なものへの指向を強め、伝統的な日本語による美しい文体を確立するに至る。1949(昭和24)年、文化勲章受章。主な作品に『痴人の愛』『春琴抄』『卍』『細雪』『陰翳礼讃』など。